HABU’S PHOTO GALLERY

HABU’S VOICE 8

誰とも繋がってない自分

写真家になりたくて約10年間、カメラを持って放浪を繰り返していた。
出口が見つからず、自分の精神の均衡が保てず宗教の本や精神世界の本も読んだ。
でも結局人生には教科書やガイドブックなんてないんだということに気づいた。

僕がサラリーマンからドロップアウトしたきっかけになったのは、
ケン・グリムウッドが書いた『リプレイ」(新潮文庫)という本だった。
主人公が42歳になると死んで、18歳から前世の記憶を持ったまま
人生を何度もやり返すという話。
彼は様々な人生を体験する。お金持ちになったり、
アーティストになったり、ヒッピーになったり。
でも、42歳になると築きあげた家庭や地位名声は幻となって消える。
そんな話だった。
その本がきっかけで自分の人生や、未来や可能性について考えだすようになった。

もう一冊がリチャード・バックが書いた「ONE」という本。
人生にはどっちの道を選ぶか何度も決断する時があり、
右を選んだが、左を選んだ世界も平行世界として存在する。
その別の道を選んだ様々な自分の将来を、主人公が体験するという話。
その物語の中でパッとしなかった人生を生きた主人公は、
パイロットになりたかったのになれなかった。
「俺だって、本当はもっと成功できたんだ」とうらぶれたバーで語るシーンがある。
その言葉を読んだ瞬間電気が走った。極端な話だけど、
僕はサザエさんのマスオさん的人生とインディジョーンズ的な人生。
どっちか一つ選べと言われたらどっちを選ぶんだろう。
結局僕は崖から飛び降りる気持ちでインディジョーンズを選んだ。
(かなりレベル低いインディかもしれないけど)
それまで物語の中でしか触れたことがなかった、
冒険という行為を自分の人生に受け入れた。
サラリーマンを辞めオーストラリアに渡り、英語学校に10週間だけ通ったのち、
僕の放浪は始まった。

予定のない旅、目的地のない旅なんてしたこともなかったが、
そのまま約10ヶ月カメラを片手に初めて見る大地をさまよった。
情報のない旅、何に出会うか全くわからない旅、偶然の出会い、
見たこともない圧倒的な夕焼けや星空。
自分一人しかいないエメラルドグリーンのビーチ。
誰とも繋がっていない自分。
何者でもない、何の肩書きもない英語が下手なアジア人の旅人。
そんな環境は自分が何が好きなのか、何を求めているのかを
じわじわと思い知らせてくれた。

都会で、ファッション企業の広告を作っていた自分。
実体のないイメージを、豊かな生活であるかのように
思わせるトリックを仕事にしていた自分。
ちょっとは美意識に対して自信があった自分。
でも自然のエネルギーのすごさを目の当たりにするうち、
ダメだ俺のレベルは低かった、と思うようになった。
それを毎日見せていただくうちに
僕はこのバイブレーションを伝える伝道者にならねばと思うようになった。
僕がすごい写真を撮っているのではない。
僕はただ撮らされている道具なんだ。

今はネットもスマホもあるのが当たり前だけど
電波の届かないところに行くと、人間の本能が必要になる。
僕は昔から行方不明になるのが好きだったし、
旅に出れば電波のとどかないにところに好んで出かけ長期滞在する。
都会のノイズを逃れ、久しぶりに自分の心と脳が話し合いをする。
何日もかけて。
そんな時間を過ごすうちに、やっと写真の神様は天候を操作して
僕に最高の空を見せてくれる。
僕の心は都会に戻って何を伝えればいいのかを思い出して、
やるべきことが見えてくる。

誰とも繋がってない自分。それに向かい合うことはとても大事なことだと思う。
誰かの顔色を伺って、もっとたくさん「いいね」が欲しいから、
SNSで実体のない友達とつながる。
今の時代当たり前のことかもしれないけど。
自分一人、電波も情報も入らないところに一週間いることを想像して欲しい。
ま、好きな人といっしよでもいいか。

きっと世界が変わると思う。
僕はそうだった。

2017年3月23日