HABU’S PHOTO GALLERY

HABU’S VOICE

苦しい時は苦しい

写真集を作る時、中心になるだろう2~3枚の写真がまず決まります。
それらを毎日見ているうちに、ある日、写真集のタイトルが浮かんできます。

このタイトルが最初のコンセプトになり、
過去に撮った写真の中から、その写真集に今回の代表選手として加えたい写真を探します。
僕にとっていつ撮ったかはあまり関係ありません。
作ろうとしているのは、本のタイトルの言葉を超えるイメージの世界。
だからそれらを過去の作品までさかのぼって探します。

100点の写真集だったら、300点ぐらいは集めます。
集めているうちに、写真集につける帯や、時々はさみたい短い文章が浮かびます。
結局それらがコンセプトとなって、
余分な写真をそぎ落とす、物差しになっていきます。

文章も同じで、言いたいことがたくさんあるので
饒舌に延々と語ります。
でも言いたいことの本質は短い文で済むのです。
あるいは短い一言で。
多くを語ると、聞いている人は一番言いたいことに気づいてくれません。

写真も同じで、見る人は別に上手な、ものすごい写真を見たいわけではないんです。
自分の心が共鳴する写真を見たいんです。
だから、一冊の写真集を作る時には時々読者になります。
どーだ、すごいだろ。
こんな写真はわずかでいいんです。

写真家は小説家と同じ、メッセージを発信しなければいけない。
そのメッセージを共感して、応援くれる人がたくさんいればなんとか食っていけるんです。

昔、自分が何をどう発表すればいいか悩んでいた頃、
できれば、いつもハッピーで明るく楽しい写真を撮って
みんなを幸せにしたいと思っていました。

でも20年前の1996年、
「自分の物語」という写真詩集を作る旅は、思い通りにならない旅でした。
スポンサーも写真展もすでに決まっていて、
2ヶ月という限られた期間で撮ってまとめなくてはいけない。

プレッシャーに押しつぶされそうで
重い心で、暗い写真しか撮れませんでした。
でもある日気がついたんです。
あの、扉の「道」の写真を撮ろうとファインダーを覗いていた時でした。

自分の気持ちを偽って写真を撮っても、見る人はわかる。
写真は言葉ではなくてバイブレーション、エネルギーなんだ。
正直に撮れば「今、バッドです」というエネルギーしか伝えられないだろう。
その時わかった
いいじゃない。あれほど明るかった俺がバッドなんだ。
それをそのまま撮ればいい。
嘘はバレる。

じゃあこの気持ちから抜け出すには
どうすればいいんだろう。
それがその旅のテーマになりました。
自分の暗黒面と向かい合う旅はとてもヘビーだったけど、
何かのふりをして、うまく世渡りする、そんなことと決別することができた気がします。

苦しい時は苦しい、悲しい時は悲しい。
真剣にシャッターを押すと、必ずそこには自分の気持ちが写っている。
人にはわからなくても、自分にはわかる。
嘘をついたら、表現者はおしまいだ。
そんなことに気がついた、旅でした。

今でも、空を見上げて「わー!」という声が出て、
すぐにシャッターを切ります。
そこには僕の「わー!」「どひゃー!」という気持ちが写ります。
時には水平線や、地平線が斜めだったり、ぶれたりボケたり。

もう少しレベルの高い写真にしようと、三脚を立てて、レンズを選び、構図を考え、
じっくり風景と向き合う頃には、冷静に目の前の景色を見つめています。
さっきより、エネルギーやバイブレーションは弱くなってる気がします。
そりゃ、上手な写真かもしれないけれど。

やっぱり僕が感動して、車を飛び出して、あわあわ言いながら
「今しかない!」って言いながら、シャッターを押した写真じゃないと、
見る人には、その時の僕の気持ちが伝わらないと思います。

空の時間は常に流れています。
一瞬が命。
そこが空の写真の面白いところです。
その場所、その瞬間にカメラを構えて存在している。
写真家の才能って、それが全てだと思います。

2016年9月30日