HABU’S PHOTO GALLERY

HABU’S VOICE

考えるんじゃない、感じるんだ

僕の撮影スタイルは、基本的に旅に出て写真を撮る。
取材の仕事では作家に同行し、人物や町並み、食べ物を撮ったりすることもある。
こんな時は出発前の成田空港から気持ちを盛り上げ、
よけいなことは考えないで勢いだけで撮って行く。
強い写真を常に頭に意識して、枚数も多めに撮る。がんがん撮る。

自分の作品作りの旅はちょっと違う。
東京での生活と、都会のペースを離れ
自分の心地よいバイブレーションを探す。
いつも10日から2週間ぐらいは都会モードを脱却できない。
写真を撮ろう、撮ろうと頭で考えてしまう。
あの雲は見かたによっては、イルカに見えるんじゃないかとか、
時間の過ごし方、ものを見るスピード
一瞬で見切りを付ける癖がついていて
なかなか自然のペースに自分を合わせることができない。

だから僕はキャンプに出かける。
森の中や、海にそばや、山の国立公園でテントを張って生活を始める。
はじめの2〜3日はよほどのことがないと写真も撮らない。
ただそこで空を見て、森を見て、海を見て
泳ぎ、散歩し、風や波の音を聞き、虫や鳥の声に耳をかたむける。
人ともほとんど会話しない。
季節外れのキャンプ場に人はいない。
屋外で料理をし、屋外で食べ、屋外でビールを飲み、そしてテントで寝る。

こんなことをしているうちに都会で着込んでいた
社会に対応するための鎧や
いい人でいるための衣装や
ちっぽけなプライドや
写真家HABUという名刺を脱ぎ捨てて行く。

最初のうちは居心地が悪い。
時間がなかなか過ぎない。
でもやがてゆっくりと、身も心も自然のペースに包まれていく。

そして思い出す。

理屈じゃない、バイブレーション。
考えるんじゃない、感じるんだ。

身も心もほぐれてくると写真を撮りたくなる。
撮りたい物が苦労しなくても見つかるようになる。
僕はテントをたたみ、新しい何かを見つけるために旅を始める。

僕にとって旅で一番大切なのはこのコンディション作りだ。
放浪していた頃と同じ感動を、同じ思いを
今の自分も感じられるようにする。

心のコンディションさえ整えば
何でもない場所でも傑作は撮れる。
今いる場所をぐるっと、一周見渡すだけでも
きっと撮れる。

2015年10月19日



この文章は2009年 PHP研究所から発売されたフォトエッセイ
「空のとびら」に加筆訂正した物です。